桜ふたたび 後編
「あたしはこの子のためを思って言ってるの! 何の取り柄もない、自分が何をしたいのかもわからない、自己主張も自尊心もない澪みたいにつまらない子は、親の言う通りにしていればいいんです」

この調子でやられたら、澪は何も言えない。こうして長い間、彼女は言葉を封じ込まれてきたのだろう。

「それを、親に隠れてガイジンと同棲してたなんて、ふしだらな! どうせまた優柔不断で流されているんでしょうけど、加世木のところみたいに騙されるに決まってます」

「失礼なことを言うなよ」

ジェイを毛嫌いしてる悠斗も、さすがに擁護せずにはいられなかったか。

それにしても、目の前に〝ジャンルカ・アルフレックス〞がいるのに、彼女の目は澪にしか向いていない。ここまで存在を無視されたのは、ジェイには初めてだった。

「あたしは絶対に嫌ですからね。青い眼の孫なんてゾッとする。恥ずかしくて鎌倉にも言えないじゃないの。ねぇ、あなた」

父親は、会話に一分の興味も示さずに、煩わしそうに横を向いている。

それまで責められるまま項垂れていた澪が、ぽつりと言った。

「青い眼がどうしていけないの?」

母はぽかんとした。澪が口答えするとは微塵も思っていなかったようだ。

「お、落ち着けよ。青い眼の子どもなんて生まれるわけがないやんか」

「ほら見なさい! 親に逆らうことなんてなかったのに、ガイジンなんかとつき合うからよ!」

ツッコミどころ満載で論破するのは容易いが、ヒステリックの前では二階から目薬だ。彼女の怒りのベクトルは一直線に澪に向いていて、口を挟めばますますその責めを大きくするだろう。

おもむろに澪が立ち上がった。
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