桜ふたたび 後編
「待ちなさい!」

踵を返す澪をすぐさま追いかけて、母親が腕を鷲掴んだ。澪はどんよりとした目で、掴まれた腕を眺めている。

「誰に育ててもらったと思ってるの。勝手なことは許さないわよ」

澪の瞳が一瞬揺れた。それから彼女は一度目を閉じると、どこにそんな力があったのか、母の手を一刀両断に振り解いた。

「澪!」

怒声に澪は目を固く瞑って体を硬直させた。同時に、悠斗が母親の振り上げた手を後ろから捕らえていた。

ここまでか。

「今日は失礼します。また改めて伺いますので」

ジェイはそう告げると、澪の手を取った。

母親の激しく呪うような顔、余所事のように新聞を手に席を立つ父親。
一刻も早くここから連れださなければ、澪の心が凍ってしまいそうな気がした。
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