桜ふたたび 後編
ああ……と、ローラは頽れた。

骨の浮き出た背中に、貧困に喘ぎながら巨漢のpeople with disabilities(米国には障害者という概念はない)を養う母の辛苦を思わせる。
カールは理解できているのだろうかと、その場に居合わせた(ジェイ以外の)瞳に哀れみが浮かんだ。

『家にコンピュータはなかった。あなたが隠蔽したのか?』

ローラは大きく頭を振って目尻を拭いながら言った。

『コンピュータを買えるような余裕はありません。昔、近所の子どもがいらなくなったPCをくれたのですが、それも押収されたきりです』

『その子どもの名前は?』

『ノア、です。そういえば、ノアの父親はサンディスプリングスに勤めていて、カールはホットドッグのおじさんと呼んでいました』

『ノアの父親は、今どこに?』

『亡くなりました。あの事件から一年くらい経った頃でしょうか。ノアと母親も……、殺されたんです』

そのご親切なノアの父親が、ホットドッグを餌にカールをハッカーとして育てたとみて間違いないだろう。
カールに全ての罪を被せ二億ドルをせしめたが殺害された。金の配分を巡って仲間割れでもしたか。

『今回は誰のマシーンを使ったんだ?』

ジェイの質問を、ローラが繰り返す。

どうやら、カールとコミュニケーションが取れるのは、ローラとレオの娘たちだけのようだ。
その彼にいかなる手段で犯罪を実行させたのか。

『マシーンはC02FW012PA78、黒いウィネベーゴのなか。NEWYORK(エヌイーダブルワイオーアールケイ)4RF776。カールはメルとゲームした』

『メル?』
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