桜ふたたび 後編
「また悩んでるの? お姫様は」

腰を屈めて傘の内を覗き込む視線から、澪は思わず顔を背けた。

「悩んでなんか──」

「ダメダメ、顔に書いてある」

逃げるように歩き出す後を、辻は当然のようについてくる。

「俺に相談してみないかなぁ。人に話すとすっきりするよ。どうせあいつには言えないんだから」

「言えますよ」

「言えない、言えない」

辻は見透かしたように笑う。

「つまらない悩みだと軽蔑されたくないとか、時間をとって怒らせたくないとか、考えちゃうんだろうな、君は。どんどん自分の内に溜め込んで、ある日突然噴火しちゃうタイプ。そうなる前に気づいてあげればいいのに、あいつには無理でしょう。王様だからね。他人の心の痛みには鈍感なんだよ」

「失礼です」

苛々していたところに不躾なことを言われて、澪は珍しく本気で腹を立てていた。

「どこがいいのかなぁ? あいつの」

「全部」

突き放そうとしたのに、逆効果だった。

「ムキになるほど愛しちゃってるわけだ?」

「……」

「愛があればどんな障害も乗り越えられるなんて、そんなガキみたいなこと、本気で信じちゃってるの?」

背中から心臓を刺されたようだった。

「報われないよな」
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