桜ふたたび 後編
『寄付の依頼をしてきてほしいと頼まれてパリまで来てみたら、このざまよ。たいしたパトロンだったわ。で、今夜のエスコートは、あなたなわけね?』

ルナは行儀悪くテーブルに尻を乗せ、軽蔑した目でホワイト・タイの共謀者を睨んだ。

『そのようだ』

ルナは片眉を上げた。

『何が起こっているの?』

相変わらず勘が鋭い。ジェイは背後の窓を振り返り、話を転じた。

『この間は世話になった』

半年前、澪とニューヨークで再会できたのは、ルナのお陰だ。いつか謝辞をと思っていたが、わざわざ倉卒の妹を捕まえるのも照れがあった。

『婚約したんですって? おめでとう!』

『情報が早いな』

『私の情報網はCIA並よ』

情報源はアレクか。
マダム・ネリィの夫、元商社マンの齋藤と、貿易商を営むアレクの父親は知己で、アレク自身も齋藤とは懇意にしている。
ルナに、澪との別れを告げ口したのも彼だった。
友人思いなのか、それともただ口が軽いのか、まあ両方だろう。

しかし、迂闊だった。リンたちには箝口令を敷いてあったが、思わぬところから秘密は漏れる。

『それで、結婚式はいつ?』

ルナは自分のことのように瞳を輝かせている。

『まだ決めていない』

『まあ、呆れた!』

と、ルナは目を剥いた。
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