桜ふたたび 後編
『コンプリートしたら、ママンがホットドッグにピーナッツバターを塗ってくれる。車はNEWYORK4RF776。メルはへ、下手だ。こどもだから、しかたない』

ぼそぼそと言う。

『だ、だから、カールがpromachos' atene (最前線で闘うアテナ)を捕まえてあげた』

リンがアッと声を上げ、レオが微かに瞳を閃かせたのを目撃して、ウィルは何のことだとジェイを見た。
彼は毫も表情を動かさない。

『信じられない、メインフレームが攻撃元だったなんて……。対ハッカー用攻撃プログラムが作動した形跡もなかったのでしょう?』

『しかし、彼はアテナに辿り着いた。UEBAアラート(ユーザーの挙動解析システム)も突破して』

『不可能だわ。天文学的な組み合わせよ』

『金融システムに侵入するよりは容易いな』

最新鋭のセキュリティシステムも、しょせんいたちごっこ。針の穴ほどの脆弱をつく侵入者を、監視し審査できる人間の目が必要だ。

そう考えると、襲撃事件の際、ジェイを庇ったニコが負傷したのも、偶然だったのか疑わしい。

『ニコに連絡を。マルウェアが仕掛けられている可能性がある』

『車を押さえますか? 手がかりが残っているかも知れません』

『いや』

と、短く否んだジェイの唇が、次に動くのを待つように会話が途絶えた。

そのわずかな隙に、ローラはテーブルに身を乗り出しジェイに取りすがった。
< 9 / 271 >

この作品をシェア

pagetop