桜ふたたび 後編
『どうするの?』

ジェイはつと目を開けて、窓へ首を回した。

『簡単なことだ、私か君か、どちらかが子羊になればいい』

『私は厭よ!』

あのいけ好かない野郎のキスを受けるなど、想像しただけで鳥肌が立つ。

『それでは私だな』

冴え冴えとした口調に、ルナは目を剥いた。

『冗談を言わないで! ミオはどうするの!』

声を荒げ、ルナはアッと発した。
そう、ジェイはわかっていた。わかっていながら罠に飛び込まなければならなかったのだ。

ルナはじっと考え込み、それからツイっと顔を上げると、まるで悪知恵を耳許で授ける堕天使のように真顔で言った。

『振り落とされる前に、既成事実を作ってしまいなさい』

『無茶言うなよ』

と、笑ったその瞳は、笑ってはいなかった。
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