まじないの召喚師3



意識のない3人を重力操作で浮かせて運び、リビングの床に寝かせた。

ソファに3人寝る広さはないので、不公平をなくすためだと誰にでもなく言い訳する。



「……ぅ、ここは………」



最初に目覚めたのは雷地だった。

ぼんやりと天井を見上げてから、両腕で顔を覆う。



「あはっ、負けちゃったかぁ……」



「身体はどうだ? 一応、ヨモギに治療させたが」



「なおしてやった!」



腰に手を当て胸を張るヨモギ君。

小さいながらも、治癒能力は一級品。

怪我の多い先輩を支え続けてきた、有能な先輩の相棒である。



「………うん、平気平気」



雷地は自身の体を触り、確かめるように伸びをした。

痛みに顔を顰める事もない。

峰打ちとはいえ、壁にめり込むほど振り抜いたのを気にしていたらしい先輩は、ほっと息をついた。

次に目を覚ましたのは柚珠。



「あー、クソッ。あの筋肉達磨、思いっきり殴りやがって……」



「……ぶりっこ、猫逃げてるよ」



「黙れ根暗」



柚珠は横目で響を睨んで、ボサボサになった髪を結び直す。



「筋肉達磨はまだ寝てんの? 勝ったからって浮かれすぎじゃない?」



結び終えたら、近くで寝ている常磐を叩いた。


ぐぅー、と寝息で返事がある。



「いや、勝ったのは俺達だ」



先輩の言葉に、柚珠と雷地が目を丸くする。



「………はぁ? なんの冗談? ボクの荊でぺちゃんこにしたよね?」



「俺は見てなかったけど、鉄壁のこいつが負けたの?」



「式神にでも聞いてみろ」



「………………タケミカヅチ」



雷地の隣に、雷地と似た風貌のイケメンが現れた。



「勝負に勝ったのは誰?」



「そこの3人だ」



「………タケミカヅチが嘘をつくはずがない。本当なんだろうなぁ……」



雷地は、ばたりと大の字に寝転がった。



「あーあ。まさか俺が同年代相手に二度も負けるなんて。しかも一人は火宮の無能……」



「先輩に開始と同時にやられたくせに。ボコられたりないのかな?」



ツクヨミノミコトが出てきた。

最近、私の意志とは関係なしに出てくるようになったなぁ。

このひと、先輩愛が強い。



「褒めてるんだよ。火宮家、見る目なさすぎでしょ」



くつくつと笑う彼は不気味だ。



「……いいよ。負けは負けだ。そこの、ツクヨミノミコトの生まれ変わりにつく」



「ボクもいいよ。筋肉達磨の下につくよりマシ」



「………上から目線だなぁ」



「もともと勝負に負けたお前らに拒否権はねぇよ」



それからは私達5人、ローテーブルを囲んで試験の申し込み用紙を書き上げた。



「んあっ? ここは……」



「ご主人様、だるまがおきた!」



「おきた!」



子供達が先輩の背中に飛びつく。



「よく寝てたな。皆書き終わったぞ。あとはお前だけだ」



「あ………」



「あ?」



「あんな試合無効だ!」



突然、常盤が叫び、注目を集めた。

先輩は冷めた目で見ている。



「いやいや、イワナガヒメも認めたが」



「俺は認めんぞ! あんな不意打ちは無効だ! 俺はもっと、血湧き肉躍るような、ワクワクする戦いがしたいんだ!」



「開始の合図が騙し討ちなお前に言われたくねぇよ!」



先輩のツッコミに全員で頷いた。



「仕方ないのだ。俺は正々堂々の真っ向勝負が好みなんだが、家の奴らに仕込みは大事と教わって」



「へぇ、それで? 今から仕切り直すか?」



どんな小細工も蹴散らしてやる、何度やっても結果は同じだがな。

と挑発的な先輩に、常磐は目が覚めたようで首を振った。



「いや、すまなかった。取り乱したな。家を出たんだ、俺の好きなように戦える。家の教えを守って、卑怯な真似をして勝っても嬉しくない。……お前らが望むなら、部屋割りを改めて構わない」



「荷物運んだ後じゃん」



「今更いらないし」



柚珠は顔を背け、雷地はしっしと手を払った。



「これからよろしく。浄土寺常磐だ。打たれ強さには自信がある」



常磐に差し出された手を取り、固い握手をかわす。



「天原月海です。よろしくお願いします」



筋肉達磨の握力で手が悲鳴を上げていたが、愛想笑いで乗り切った。






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