まじないの召喚師3



「はぁーあ。つかれた………」



うつ伏せで、枕にゼロ距離でため息をぶつけた。

なんやかんやで今日、色々あった。


朝から次期当主の訪問、妹と弟君の襲来、増改築からの荷物運び。

挙げ句の果てに、リーダー決めの決闘で私がリーダー。

……たぶんこれは名前だけだと思うけど。

責任だけ押し付けるのはやてめくれると嬉しいな。

仲良くするための折衷案であって、スケープゴートではないのだから。

いや、奴らそのつもりかもしれないけど、断固拒否であるからして。


とまあ、小心者の私は愛想笑いで厄介ごとを引き受けるに至る。

書き終えた試験の申込用紙は、専用封筒に入れ、霊力を込めると、鳩の姿に変わり飛び立った。

六羽の鳩が仲良く飛び立つ背中を眺めていると、先輩にあれも式神だと教えられ、式神とはイカネさんのような神様だけじゃないんだと知った。

そして今、夜ご飯やお風呂を済ませて、自室でぶっ倒れているのだ。



「………はぁ、静かだ」



この家には、防音仕様もついているのか。

自身のたてる音しか耳に入らないほどに静かだ。


瞼が重い……。

こんな状態でイカネさんと脳内通信は迷惑だよなぁ。

せっかくの邪魔の入らない一人部屋なのに……。

妄想の中の天女イカネさんが、眠気を誘う声でおやすみなさいと言ってくれる。

天女は穏やかに微笑んで許してくれる。


この埋め合わせは明日必ず………ぐぅ………。


抜けるような青空の下の花畑。

甘い香りを肺いっぱいに吸い込む。

イカネさんと二人きりで、優しく微笑むイカネさんのために不器用な花冠を編んでいると………。


ドーンという爆発音とともに、地面が揺れ底の見えない深い亀裂が走った。

花畑は一瞬にして枯れ、ひび割れた土が現れたところで、飛び起きる。

見慣れているが真新しい、私の部屋。

普段は無臭な自室は、甘い香りと焦げ臭い匂い、その他よくわからない匂いが闇鍋のように混ぜられて、とにかく異臭がする。

ペンダントライトがゆらゆら揺れ、机の上の教科書などが滑り落ちる。



「何!? 火事!? 地震!?」



至福の夢が……二度寝しても見れる保証もないのに……。

家の揺れはおさまったが、眠気は吹っ飛んだ。

全力疾走後のように早鐘を打つ心臓をそのままに、ベッドを飛び降り、部屋の扉を開けるとほぼ同時。

隣の部屋の扉も開け放たれる。



「どの家の襲撃だ!」



「先輩…!」



「よぉ、無事だったか」



「最悪な目覚めですけどね」



「照れるなよ。俺の部屋の壁をとっぱらおうとしたんだろ?」



「げぼく、おまえのせいか」



「せいか!」



「ちがいます」



断じて、昔の繋がった部屋に未練はない。

だから、私と先輩部屋の壁をぶち破って繋げようなどと、思うはずないじゃないか。

先輩だって、部屋にエアコンついてるんだから冷気を求めて壁破壊なんて必要ないでしょ。

イカネさんの慈悲を無断で享受した不届者め。

あー、思い出したら腹が立ってきた。

しかし今の私では先輩に勝てない。

落ち着け落ち着け。

あの時は火宮家だったが、今は天原家。

私の家である以上、勝手は許さん。

正義は私にあり。

プライベート大事。
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