まじないの召喚師3
「じゃあ、さっきの揺れはなんだよ!」
「知りません! ………いっ!」
瞬間、再び家が揺れる。
バランスを崩して壁に手をついた。
足の小指ぶつけて痛い。
「響の部屋か!」
黒っぽい煙の漏れ出る響の部屋の扉を、先輩が蹴破り、煙が溢れ出てくる。
「っ、げほごほがはっ……っ!」
なんとも言えない濃厚な煙をもろに吸っていまい、呼吸が苦しくなる。
肺に残った空気を全て吐き出し、意識して吸わない。
涙が滲んできたところで、急に体が軽くなった。
「身体強化を忘れているよ」
ツクヨミノミコトが代わってくれたらしい。
体に悪そうな煙を吸っても平気な身体強化最強か。
「今日からは、自室以外では身体強化を切らさない方がいいだろうね」
まったくもって、そのとおり。
オオクニヌシにより強化された家を破壊するなんて、とんでもないですね。
いや、強化された家を揺らす爆発も相当ですが。
もしもこれが一般家庭なら、ガス爆発のように、ご近所さん巻き込んで半径数キロを吹き飛ばしそうだ。
一般人は木端の如く死んでしまうよ。
術師怖い………。
「現実逃避はそこまでにして、現実を見に行こうか」
ツクヨミノミコトは扉のなくなった響の部屋を覗く。
もちろん、視界を共有している私にも認識できるわけで。
廊下にその大半を流してもまだ煙たい室内は、見覚えのある太い荊が蠢いていた。
先んじて入室していた先輩が輪切りにしたそこから生えて、キリがない。
切り落とされた部分は足元でうにょうにょと蠢く。
芋虫みたいで気持ち悪いぞ。
だが、気持ち悪い挙動のくせして凶悪。
普通の芋虫にはない薔薇のような棘が床を叩くたびに傷をつける。
これは芋虫ではなく毛虫だね。
芋虫にいがぐりやウニを足して2で割ったような。
大好きな先輩のいる危険地帯な響の部屋に、入らずいてくれるツクヨミノミコトは実は優しいと錯覚しそうだ。
それとも先輩に対する信頼か。
刀を振り回す先輩の背中から苛立ちが伝わる。
斬るたびに数が増えて流石に鬱陶しかったのか、裸足で蹴飛ばしたが、その足から血が飛ぶことはない。
しかしパジャマは裂かれ、肌色がしだいにあらわになる。
先輩の体に切り傷はついておらず、血もにじんでいない。
パジャマがボロボロになりつつあることから、切れ味は証明されている。
なるほど、身体強化とはこう言うことか。
体育館で初めて会った時より、固くなったものだ。
「おい! 響、無事か!?」
先輩が荊の向こう側に声をかける。
響とは、協力して戦った仲である。
同盟者として、助けに行くのは当たり前だ。