まじないの召喚師3
『冷たいこと言わないでよ。助けになってるじゃん?』
そんな最低評価のツクヨミノミコトに脳内に語りかけられた。
危機的状況ですよ。イカネさんに失礼な態度とって、嫌われたらどうするのですか。
『願ったり叶ったりじゃないか』
絶望だよ!
内心、頭を抱える。
ツクヨミノミコトはイカネさんのことがあまり好きではないらしい。
私はイカネさんのことが好きだから、この点においては相容れないんだよなぁ。
『月海もいいかげん、オモイカネから私に乗り換えなって。私は尽くす神だよ』
お断りします。力だけ貸して引っ込んで。余計なこと言わないで。
『虫が良すぎるんじゃない?』
主人格は私です。後から出てきて私の今までの苦労をぶち壊すようなまね、やめてほしいんですよ。
『わー、差別なんだー。今や私はきみの一部。きみは私の一部。目覚めるのが遅かっただけで、主人格はきみであり私なんだよ』
スサノオさんを見習ってくださいよ、図々しい。
『きみ、半身であり相棒の私に向かって酷いこと言うね。そもそも、スサノオはもともと寡黙なんだよ。めんどくさがりなところもあるから、最低限しか動かない』
『…………黙れ』
『ほらね』
「月海さん、大丈夫ですよ。ツクヨミノミコトの悪行はわたくしが責任を持ってアマテラス様に報告いたします」
「だからさぁ、脅すのはやめようよ。性格悪いよ」
「イカネさんは天女です!」
私の口で失礼な事を言うツクヨミノミコトから身体の操作権を取り返した。
そのままの勢いでイカネさんに土下座で詫びる。
「中の人がすみません、あれは全てツクヨミノミコトが言ったのであって、決して私の本心ではないんです、ちょっと後でじっくりこってり話し合って、イカネさんの素晴らしさを説いてきますから何卒ご容赦を!」
「うふふ、そんな怯えずともよいですよ。わかっていますから」
「イカネさん………」
頬に添えられた白魚の手に促されて顔を上げた。
「アマテラス様に報告いたしますから。心配いりません」
『………虎の威を借るくそ女狐』
怯えてるひとは引っ込んでなさい。
本人に聞こえていないからと、懲りずに悪態をつくツクヨミノミコト。
私はそんなツクヨミノミコトに、イカネさんの素晴らしさを布教すべく気合いを入れた。
それから部屋に戻り、荷物をまとめた私達は、その日のうちに子どもたちを連れて天原家へ引っ越したのだ。
ちなみに、作業中休まず行っていたツクヨミノミコトへの布教は、失敗に終わった。
話術の訓練は必須である。