まじないの召喚師3
第3章



翌日。


私たち6人は、家から電車に2時間ほど揺られ、開店直後の大型ショッピングモールの最寄駅に来ていた。



「……………」



その大きさと人の数に圧倒されて、せわしなく視線を彷徨わせていると、前を歩く先輩が笑い出した。




「っぶふっ。……田舎者丸出しだろ」



くつくつと肩を揺らす先輩。

何を見たか知らないけど、変な行動は笑いを誘う。



「お前のことだよ。月海。気づかれていないとでも思ったか?」



私を笑いやがったのですか、失礼な先輩だわ。

背中に目でもついてんのかな。



「………仕方ないじゃ無いですか。初めて来たんですから」



ムッとして無意識に唇が尖る。

ぶさいくがそんな顔しても可愛くないって?

知ってるよ。

自覚あるよ。

だから気づいた瞬間に唇を噛んだ。

子供たちがついてきていたなら、一緒になって笑われているところだ。

ヨモギ君とマシロ君は、おとなしく留守番できているだろうか。



「根暗も初めてでしょ。ボクが案内してあげる。お気に入りの店があるんだ」



ロリータドリルツインテールの柚珠が無邪気な笑顔で、手を繋いだ先、半歩後ろを歩く不機嫌なゴスロリ眼帯ウェーブに微笑みかける。



「………無理やり連れ出しておいて、言う台詞がそれ?」



「引き立て役は必要でしょ」



さも当然というように鼻を鳴らす柚珠は、機嫌良さそうに鼻歌を歌う。

柚珠の用意した服を着せられている響の、膝丈スカートから覗く脚は内股気味で震えている。



遡ること、数時間前。


早朝に、柚珠は、幻覚を見せる花の香りを送り込み、響が催眠にかかったところで身包みを剥ぎ、メイクまで施して連れてきたのだ。

そして、今の今まで催眠状態である。


どうして普段の奇襲が失敗するのかと疑うほどに、鮮やかな手際であった。

誰かの問いに、メイク中の柚珠は語った。



「陰気な服で隣を歩かれたくないわ」



と、申しており………。


柚珠さんよ、ほんとうは響君の事大好きでしょ。



そして完成したゴスロリ響。

パステルカラー柚珠と黒響の対比。

真逆でありながら色違いのパーツが所々使われており統一感を思わせるそれ。


柚珠さんよ、ほんとうは響君とお揃いにしたかったけど妥協したでしょ。


パッチリお目目にばさばさまつ毛の美少女フェイス。

病的な色白と消しきれない目の下のくまのせいでややダウナー系であるが、天才的美少女の咲耶や、柚珠に引けをとらない顔面だ。

ボサボサ髪を整えるだけでここまで変わるかと。

柚珠さんの愛を感じるね。


元の顔が良かったのもあるでしょうけど、とても似合っているよ。

その辺の女子とは一線を画すほどに。

そんなその辺のモブ女子のひとり、天原月海の今日のコーデはパーカーとロングスカート。

手持ちの服でいちばんのお気に入りである。


しかし、お気に入りの服も、彼らと並べば時代遅れのダサい服だ。

逆に目立つ。

周りがイケメンばかりで凡人はつらいね。


しかし、それも今日まで。

柚珠さんが響君を変身させているところをじっと見ていたので、今日、同じメイク道具を買おうと思います。

脳内シミュレーションはバッチリです。

ふんす、と気合を入れる私の隣で。



「んで。お前らは何で居るんだ」



半目になった先輩の肩に、両側から馴れ馴れしく腕を回す雷地と常磐。



「俺たちだけ仲間はずれってのも寂しいじゃん。チームなんだから、一緒に遊ぼうぜ」



「そういうことだ!」



「はぁ………。来てしまったものは仕方ないし、お前らに帰れと命令する権利も俺にはない。好きにしたらいい、が。ついてくるなよ」



「それって命令だよね。聞く理由はないかなー」



「そうだそうだ。たまたま俺の行く場所が、桜陰と同じだというだけだ!」



「ストーカーと同じ言い訳すんなよ」



雷地と常磐は、先輩が好きで、仲良くなりたいらしい。

身体強化のみで実力者たる彼らと渡り合うところが気に入られているのだろう。


そう考えると、私って場違いだよね。


イカネさんと、ツクヨミノミコトとスサノオノミコト頼りの能力で、私自身、何一つ動いていない。

訓練中の身体強化も、高校生女子の平均を超えるくらいの能力しか出せていない。

悲しくなってくるね。


さてさて。

田舎者の部外者はとっとと退散しましょうかねぇ。



「おい」



「ぴやっ!」



歩幅を調整し、人波に飲まれようとしたところで、肩を掴まれ、強く引っ張られた。

背中に何か固いものが当たり、見上げると、先輩のお綺麗で不機嫌なご尊顔。



「迷子になるところだったぞ」



わざとですよ。

皆さんみたいに、顔面偏差値高い集団の近くに立てるか。



「初めてなんだろ。お前の買い物は、俺様が見繕ってやるよ」



「いえ、結構です」



嫌な予感しかしないので。



「遠慮すんな。俺様の奢りだ」



いつの間にか先輩に繋がれていた手をバタバタぶん回すが、振り払えない。


ちくしょう、離せ。

平凡な顔を連れ歩いても、私が笑われるだけで先輩になんの得もないよ。

まさか、私が嘲笑の目を向けられるのを楽しむ気でいらっしゃる?

鬼めが!



「周りに変な目で見られてるがいいのか? 俺様としては、見せつけられて大歓迎だが」



ニンマリと、いやな笑みを浮かべられたことは、顔を見ずともわかる。


ちっ。

楽しんでやがる。


先輩の思い通りになるのは癪だが。

私は抵抗をやめ、先輩の真後ろに密着しながら、大型ショッピングモールへ吸い込まれる人の波にのまれた。






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