まじないの召喚師3


ショーケースからクレームブリュレとパンオショコラ、ドリンクからはミルクティーを注文し、一人がけの席に着く。


まずはミルクティーで喉を潤し、パンオショコラを齧る。


んんーっ。

サクサクして、香ばしくて、甘くて、美味しい。


次に、クレームブリュレに口付ける。


ほろ苦さと甘さのバランスが絶妙。

いくらでも食べれそうだ。

ああ、イカネさんと一緒に食べたかったな。

お持ち帰り用に買おうかしら。


と、この場にいない友人のことを思う。


もとより式神とは、用事がある時以外で呼び出すものではない。

見える人に見られた時、騒ぎになって、術師協会に連行されて尋問になったりして、とにかくとても面倒くさいらしいと、雷地が言っていた。

罪人になるのは嫌なので、外で召喚はしないようにした。



………と、脳内会話すら切っている寂しさに、もっともらしい理由をつける。



イカネさんは高位の神。

ほんとのところ、これまで私に付き合ってくれてた分の仕事が溜まっているらしい。

どんな仕事か詳しくは聞いていないが、彼女の邪魔をするのは本意ではないので、仕事に該当する戦闘時以外では、お伺いを立ててから呼ぶようにしている。

私に合わせて、仕事は日中や、寝静まる深夜にしているようだ。

嬉しいけど、休みはとってほしいものである。



『あいつなんて一生向こうの仕事ばっかしてたらいい。二度と呼ばなくていいよ。月海には私がいるから必要ないよね』



ツクヨミノミコトが独占欲とも取れる発言をしたが、その実、邪魔者排除が目的なので相手にしない。

というか、ツクヨミノミコトって有名だし、たぶん高位の神だよね。

そのくせに、話しかけてくるこの神は暇なのか。

イカネさんと替われや。



『このパン、甘くて美味しいね』



聞こえているはずなのに華麗に無視。

てか味覚共有されてるのなにそれこわい。



『あはっ。オモイカネがよくて私は駄目ってさ。扱いに差がありすぎるって』



同列に扱ってもらえるとでも思ってたの?



『私の方が、オモイカネよりきみの味方なのに』



そう言ってる人って百パー怪しいんだよなあ。



『きみの味方なのに?』



詐欺の常套句である。



『自分の気持ちを素直に言っているのに、詐欺扱いされて、私は悲しいよ』



邪険にされても構ってくる時点で、絶対に何か企んでいる。



『逃げたらそこで関係は終わるでしょ』



………否定はできないけども。



『でしょー。せっかく一緒にいるんだ。もっと仲良くしたいな』



なんの縁か、こうして関わりを持っているのだ。

長い付き合いになるなら、いい関係を築きたい。

まさか、そんな当たり前のことをこの変神から言われるとは思わなかったよ。

その点においては間違っちゃいない。



『オモイカネの邪魔が入らない今がチャンス』



間違っちゃいないんだが。

そんなこと言っちゃう辺りがさぁ、なんだかなぁ……。

今晩、イカネさんに話そう。



『それは無しで!』



告げ口発言に敏感に反応された。

イカネさんとの力関係どうなってるんだろう。

戦えばツクヨミノミコトが完膚なきまでに負けるのだろうか。

聞いてみたところで、強がりなツクヨミノミコトが素直に認めるわけがない。

すべてはぐらかされそうなので、思考の彼方に追いやった。



『………よろしく』



今まで傍観を決めていたスサノオノミコトの声がした。


彼の声、久々に聞いたな。

うっすら存在を忘れかけていたところだ。



うん、よろしく。



『ちょいと、私のおこぼれでいい思いするなんてずるいぞスサノオくん!』



『…………』



『スサノオくん!』



スサノオノミコトとは、ビジネスパートナーくらいにはなれてる気がする。

ちょうどいい距離感。


都合のいい関係とはならないようにしないとね。



『それって私のことかい?』



…………微妙な気持ちになった。





< 44 / 72 >

この作品をシェア

pagetop