まじないの召喚師3
揺れが収まる。
「…………」
「…………」
「…………っ」
「…………に、逃げろおぉぉぉっ!」
「キャァァァアアアア!」
「ワアァァアア!」
誰かの叫びが呼び水となり、悲鳴と狂乱で出口を求める。
「……………ま、お……ち……………」
館内アナウンスがかき消されて届かない。
圧倒的物量の人波に押されても微動だにしない常磐を盾に、先輩の腕から降ろされる。
『ああっ……。もったいない』
お姫様抱っこの終わりを残念がるツクヨミノミコトの声は無視。
汚いものを払うように、先輩に触れていたところを叩いた。
「行くぞ」
常磐を先頭に、雷地と先輩が歩き出す。
「えっ? どこに? 出口は逆……」
戸惑いながらも、私は先輩たちの後をついて行く。
常磐に割られた、私たちの横を抜ける人に、時折迷惑そうな目を向けられる。
ほとんどの人が出口へと逃げ、広くなった店内を横並びで歩く。
瓦礫の向こうに逃げ遅れた人がいれば、どけて出口へ誘導したり。
出口へ走る最後の人と別れ、しばらくして非常電源が切れた。
崩壊した建物の隙間から差す僅かな光を頼りに店内を歩く。
「幸い、死者はいないようだ」
常磐が確かめるように口にした。
彼らは今、見回りをしているのでしょうか。
「お尋ねしたいんですが、避難誘導は、店員さんの仕事じゃないんですか?」
店員じゃなくても、これから来る消防とか、救急隊とか、少なくとも客であり、一般人である私達の出る幕じゃない。
見知らぬ土地に独り彷徨うのは嫌なのでついていっているが、正直、私はとっとと避難したい。
「お前、気づいてなかったのかよ」
前を歩く先輩にため息をつかれた。
「何がですか」
「俺たちが今、何をしてるか」
「災害救助のボランティアですよね」
「似たようなもんだな。少なくとも、自然災害ではなく、人災だが」
「勘当されたといっても、五家の人間だからねー」
つまりどういうことか。
質問しようとした瞬間。
「気をつけろ! 来るぞ!」
常磐が叫んだすぐ後に、爆発音がして、瓦礫が真上から降ってきた。
「チッ、邪魔くせえ」
「俺がやる」
先輩が刀を顕現させるより一瞬早く、雷地が空中に手を翳した。
大剣が数本現れ、勢いよく射出されたそれは真上に落ちてくる天井を粉々に砕く。
剣はそのままプロペラのように回転し、風圧で、砕けた天井はどこかへ吹き飛ばされ、私たちに破片ひとつ落ちてくることはない。
「……すごい………」
「フッ。余裕」
思わず感嘆の息をもらすと、雷地はドヤァと虚空を指差した。
「グアッ!」
雷地の指先から射出された小刀が、人影を掠める。
「気づいてるよ」
「っ、クソッ!」
「えっ、人!?」
人に向かって刃物を投げるなんて、何してんの?
雷地に刺された人影が、猫背になりながらも逃げるように走った先。
物陰から飛び出した人影が、こちらに向かって何かを野球投げしてきた。
「くらえっ!」
「フンッ!」
その何かは、常磐の拳によって天高く打ち上げられ、天井の穴を広げて、外で爆発した。
「えー………」
「はっ、素手かよ」
「やるねー」
全てに驚き、空いた口が塞がらない私と違って、先輩と雷地は常磐が素手でそれをしたことに納得を見せていた。
「なんなんだよ! こんな奴らがいるなんて聞いてないぞ!」
「逃げろ!」
「通行止めだ」
「ひいいぃっ!」
人影の逃げる先に先回りした先輩が、刀を向ける。
「お前達が犯人か?」
挟み込むように移動した常磐が、鋭い声で問う。