まじないの召喚師3
周囲を警戒しながら進む中、雷地が言う。
「さっきまでいたところが、一番被害が大きかったようだねえ」
少年二人組とやりあった、呪術展のあった広間のことだ。
彼らを無力化した後、生存者の捜索をしたが、残念な結果に終わった。
同じことを思っていたのか、先輩が頷く。
「あいつらが起爆したって言ってたからな。捨て駒の扱いなんてそんなもんだろ」
「嘆かわしい事だ」
「でさー、俺たちが出会ってないって事は、こっち側に首謀者がいるでしょ」
「そうだな。油断するなよ」
「もちろん、そうなんだけど。そうじゃなくて。破壊の跡が俺たちのいた側より少ないんだよ」
「確かにな」
「自分たちは安全なところで高みの見物ってか」
「俺たちに気付いて逃げた、なんてことはないよねー?」
「そんな酷い話、あってたまるか」
逃げたなんて聞いた瞬間、思わず口から出た。
他三人も、怒りを滲ませている。
「一般人を使って事を成そうとするやり方が気に食わない」
「危険なら逃げて、安全なら出てくるって、とんだ臆病者だな」
「ま、逃げたって決まったわけじゃないんだけどー」
雷地はそれまでの空気を吹き飛ばすようにからっと笑うが、一度芽生えた怒りはそう簡単に消えない。
例えそれが、事実とは異なる八つ当たりだとしてもだ。
「フッ。やはり有象無象のごろつきでは話にならんか」
しかしその心配は杞憂に終わった。
「よかった。どうやら向こうからお出ましのようだねー」
警戒心を強めて、声のした方を見ると、趣味の悪い高級スーツに身を包み、宝飾品をふんだんに盛り付けた小太りのおじさんがいた。
一見、王道にして主張の激しい成金のおじさんだが、顔色が悪く、目も虚ろになっている。
「操られているようだねー」
「安全なところで高みの見物。チキン野郎確定」
「殴れないのが口惜しい」
「流石は秩序を訴える五家の子息。一般人には手も上げられん」
はっはっはっ、と、高笑いするおじさん。
「俺たちのこと、知ってるんだー?」
「もちろんだ。お前達五家の一族を失脚させるためにこの計画を実行したのだから」
「俺たちばかり知られてるって不公平じゃねえか。お前も名乗れよ」
「フン。知らぬはそちらの都合だろう」
「鼻で笑いやがった……!」
「我は運がいい。なんたって、ここで五家の子息に出会うことが出来たのだから!」
喜びの声色から一変、がっかりしたように肩を落とした。
「といっても、勘当された元次期当主じゃあ、いまいち脅しには欠けるか………。火宮はあれだし…………」
「はぁ?」
「言いおる」
舐められた雷地と常磐が青筋を立てて、静かに怒る。
「聞こえてんだよ……!」
後半は小声で言っていたが、先輩には聞こえていたらしい。
刀を握る手に力が籠った。
「刀と剣のお前達は金光院家の者か。雷地の側につくとは忠義な者もいたものだ」
「あぁン?」
「はい?」
先輩と私を見て、雷地の従者とでも思ったのか。
少なくとも筋骨隆々なステゴロの浄土寺家ではない。
「あははっ、桜陰のことは眼中になかったようだねー」
「巫山戯んな。お前の下についた覚えはない」
先輩の刀の切先が雷地に向き、おじさんは不思議そうに先輩を見た。
「違うのか? ………いや待て、桜陰……………桜陰って、お前、噂の火宮の落ちこぼれか!」
「よし、ぶっとばす」
「どーどーですよ、先輩、落ち着いて………」
怒りの炎が燃えたぎる先輩の後ろから、小声で気持ち嗜める。
『もとより奴を倒しに来たんだ。先輩をバカにした分上乗せしたらいいんだよ』
確かに問題なかったわ。
先輩もっとやれ。