まじないの召喚師3


なぜ、みなさんこうも血の気が多いのでしょうか。


神よ………。


私は家が無事であることを扉越しに祈るしかなかった。



『呼んだかい?』



ツクヨミノミコトが反応した。

この際ツクヨミノミコトでも構わない。



『失礼なこと言うねぇ。まあいいや、信頼はちょっとずつ築くものさ。身体使うよ』



私の身体を使うツクヨミノミコトが、両手を扉につけた瞬間。

扉の向こうから重たい物をひっくり返したような重低音がした。



「終わったよ」



扉から両手を離し、軽やかな声で宣言された。


何をしたの……。



「見てもらった方が早いね」



見なくてもわかる。目を逸らしたい大惨事だ。

覚悟を終える間も無くリビングの扉が開かれた。

予想に反して、家具などは定位置にあり無事のようだ。

返り血なども飛んでいない。


変わった事といえば、床に浄土寺常磐、火宮桜陰、金光院雷地、桃木野柚珠、一番上が神水流響と体格順に、五人が積み重なっていただけ。


死屍累々?



「存命だよ。でないと月海怒るでしょ?」



当然です。



「おいげぼく! ご主人様になにしてんだ!」



「してんだ!」



子ども達が両拳を振りかぶって向かってくる。

人間の子どもなら可愛らしいものだが、相手はあやかし。

小学校低学年の外見だが、妖狐の子と鬼の子。

対する私は霊力による身体強化を学習中とはいえまだまだ一般の人間だ。

まともに食らえばタダではすまない。


指先を彼らに向け、天井にくいと曲げると、ふたりはその場に浮遊した。



「うわわっ!」



「わわわわ!」



手足をバタバタさせるが、前進も後退もしない。

無重力空間に浮いているようにクルクルと回っていた。

ツクヨミノミコトは、指先ひとつで無力化に成功したのだ。



「ざっと、こんなものよ」



やりすぎでは……?



積み上がったままびくともしない次期当主達が心配になる。



「家も壊れていない、争いも止めた。これ以上に何が望みだい?」



子ども達に空中遊泳を楽しませながら、ツクヨミノミコトが問う。

言われてみれば、希望は叶えられている。



「でしょー。私はオモイカネより有能だからね」



鼻高々で機嫌のいいツクヨミノミコトに余計な事は言うまい。



うん、ありがとう。そろそろ身体、返してもらうね。



身体の操作権が私に移ると同時に、子ども達はべちゃりと床に落ちた。







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