再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「あの迷惑女が流した噂のせいで就職活動も苦労したし、元彼にも散々誤解されて揉めたじゃない。やっぱり東京で就職すればよかったのに」


怒りながらも、心配そうに親友が告げる。

過去の噂が、今もひとり歩きしているため困った事態になっているのは事実だが、極力関わりたくないのが本音だ。

樋浦さんに罪悪感はなく、今さら収拾もつかない。


「東京の実家はとっくに売却していたし、札幌が好きなの」


「希和が根も葉もない噂でいまだに苦労しているのを見るのが嫌なのよ」


優しい親友は過去の悪評をとても気にしてくれている。

杏実は卒業後、実家のある東京に戻ったが、今でも連絡を取り合い、長期休みには顔を合わせている。


「樋浦さんに再就職がバレないように気をつけなさいよ。先輩の紹介なうえ、勤務先が嵯峨ホールディングスだなんて知ったら相当やっかまれるから」


「大丈夫、接点がないもの」


「先輩が絡んでいる時点であるの。嵯峨ホールディングスの御曹司は身長百八十五センチ、二十九歳の独身で、やり手のイケメンとして有名だし、絶対妬まれるわよ」


イケメン好きの杏実が興奮気味にまくしたてる。


「御曹司は東京本社勤務だし、会う機会なんてないわよ」


「自分が任される事業なんだから北海道に来る可能性はあるでしょ。ちゃんと情報を頭に入れておきなさいよ。もちろんイケメン具合もしっかりチェックしてね」


相変わらずの態度に思わず頬が緩んだ。


「希和はひとりで抱え込む癖があるから、厄介事や悩みはきちんと吐き出さなきゃダメよ」


付き合いが長いだけあって、私の性格をよく理解してくれている。

助言を心に留め、その後は楽しく過ごした。

同窓会を終え、我が家に宿泊する杏実とともに帰宅すると、スマートフォンに先輩からメッセージが届いていた。

今後の簡単なスケジュールが記載されていた。

面接は不要で、指定された日時に嵯峨ホールディングス札幌支社に向かえばいいらしい。

このご時世の再就職にしては好条件すぎて心配になる。

そもそもすでに採用とみなされているのも信じられない。

ふう、とひとつ重い息を吐いて、もう一度メッセージに目を通した。
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