再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「……希和、お願いだ。ひどい真似はしたくない」


さらりと艶やかな髪が私の首元に触れる。

惺さんが私の胸元に額を押しつけていた。


「頼むから泣くな。無理強いしたいわけじゃない。でも……もう失うのは嫌なんだ」


初めて耳にする弱々しい声に、胸が震えた。


本気で私を必要としている?


一緒にいようとしてくれているの? 


もう一度信じていい?


手首が解放され、思わず彼の髪を撫でた。

正しい選択か、わからない。

でも、ここで妙な方向に拗らせるなら、話すべきなのかもしれない。

ああ、もう、この恋心は本当に厄介だ。

甘いと言われても、どうしてもこの人を憎めないし、苦しめたくない。

すうっと小さく息を吸う。

惺さんの反応が怖い。

それでもこの場を正しく穏便に済ませる方法が、もうほかに思いつかなかった。


「……息子を、保育園に……迎えに行きたいの……」


途切れ途切れに、ゆっくり話すけれど、緊張で語尾が掠れてしまう。


「……は……?」


頭を上げて数回瞬きを繰り返す。


「息子……?」


ひとり言のような問いかけに、静かにうなずく。

惺さんは私をじっと見つめ続ける。

どれくらい時間が経ったかわからない。

綺麗な二重の目から陰りが消え、いつも通りの明るい自信に満ちた輝きが広がっていく。
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