再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「そうか……息子……わかった。希和、行こう」


いうが早いか、私を支えるように立たせて、支度を促す。

もう一度シャワーを浴びるか確認され、着替え一式を渡される。

そして洗面所に案内してくれた。


「あ、の……」


なんで、なにも詳細を聞かないの?


「迎えの時間は何時?」


「……七時半」


「今から準備して、車で向かえば間に合うな」


髪をかき上げ、シャツを羽織りながら口にする。


「いえ、私ひとりで……」


「足がふらついているだろ? 俺のせいだし責任を取らせて」


耳元で優しくささやかれ、戸惑う。


「なあ、希和。ひとつ教えて」


「なにを?」


「俺と離れた後、誰かと付き合った?」


「……付き合っていないわ」


「好きになった人は?」


「……恋愛的な意味では誰も」


あれだけ激しく何度も抱いておいて、わかっているくせに今さらなんの確認?


「本当に?」


「私はあなたと違って嘘はつかないわ」


段々イラ立ってきて、ついキツイ口調で返してしまう。


「なんの話だ? 俺は希和に嘘はつかない。今までもこれからも」


眉間に皺を寄せる表情を見たくなくて、視線を逸らす。

はあ、と重い息を吐く音が聞こえた。


「……今は時間がないからこの件は一旦保留だ。準備ができたらリビングに来て」


そう言って、洗面所を出ていく。

残された私は話の展開が理解できず、こめかみを指で押さえた。

ドクドクと鼓動は相変わらず早鐘を打ち、先ほどまでの緊張のせいか指が震え、頭痛がする。


「……しっかりしなきゃ」

 
時間がないの、余計な考えは捨てなさい。


今、なにより優先すべきは悟己の迎えよ。


必死に自分に言い聞かせる。

閉じ込められなかったのは幸いだ。

彼の気が変わらないうちにここから出て、保育園近くでお別れしよう。

決意して、手早く着替えた。
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