再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
先ほどまでの情事が嘘のようにきちんとスーツを着込んだ彼が、車を走らせる。

一方の私はなんとか体裁を整え、助手席で流れる景色を見つめている。

尋ねたい事柄は幾つもあったが、口にできそうになかった。

葛藤している間に、保育園近くの駐車場に彼が車を停める。


「行こう」


「あ、の……なんで……?」


当然のように降車し、助手席のドアを開けてくれた惺さんに疑問をぶつける。


どうしてあなたも降りるの?


まさか……悟己を奪うつもり?


頭に浮かんだ最悪の考えに、警戒心が強まる。


ううん、こんな人前で、しかも保育園で乱暴な真似はしないはず。


そもそも自分の子どもだと知らないのだから。


否定と肯定を繰り返していると左手を取られ、指を絡められた。


「息子の名前は?」


戸惑う私を優しい目で見つめて問う。


「さと、み」


「そうか……漢字? 平仮名か?」


「漢字よ、ええと……」


漢字を伝えると、なぜか花がほころぶように笑う。

綺麗な笑顔にしばし見惚れてしまう私は、救いようがない。

もう会わないという決意が揺らぎそうになって怖い。

甘やかされるのに、守られるのに、慣れてしまったら、ひとりで立ち上がれなくなる。

なによりも、あなたの息子だと告白する気も、勇気もない。
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