再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「私にも嘘をついたでしょう? 本社で仕事だって言っていたのに……結局惺さんは自分に有利に物事を進めるためなら簡単に人を欺くのよ」


四年以上前の出来事を今さら蒸し返したくないのに、恨み言のような物言いが口をつく。


「……なに?」
 

端正な面差しが不機嫌そうに歪む。


「希和に誤解を与える振る舞いをしたのは確かで、弁明の余地はない。だが何度も言うが俺はお前に嘘はつかない。俺にとったらあの女に会うのは仕事の一環だった」
 

淡々と説明する姿に氷水を頭からかけられたような気になった。

誠実さを訴える一方で、ビジネスのために恋心すら利用する非情さに心が凍り、ひび割れそうになる。

舘村さんの、嫉妬で歪んだ表情を思い出す。

取引のため想い人に利用されるなんて、私なら耐えられない。

そんな状況で求められても、素直には到底喜べない。


「ひどい……」
 

思わず漏れた本音に彼がため息を吐き、呆れたような視線を向ける。


「自分がなにをされたかわかっているのか? あの女のせいで俺たちは離れて、こんな状況になった! 俺が捜さなければずっと再会できず、一生悟己に会えなかったかもしれないんだぞ!」
 

怒りをぶつけられ、肩が竦む。

それでも、言い返さずにはいられなかった。


「だったら……最初からすべて話してくれたらよかったのよ。いくらなんでも好きな人に利用されるなんて悲しすぎるわ」


「……お人よしすぎて話にならないな。今、悟己に会えてよかった。希和ひとりで悟巳を育てたら、とんでもない育ち方をする。そんなだから樋浦の令嬢にもなめられたんだ」
 

吐き捨てるような物言いに、心が一気に冷える。
 

なんで樋浦さんを今さら持ち出すの? 


関係ないでしょう?
 

母親失格とでも言いたいの?
 

考えが甘い自覚はあるけれど、純粋な想いを利用するのが正しいと思えないだけなのに。
 

それを主張するのが、そんなに責められることなの?
 

数分前に理解できたはずの男性が、まったく知らない人のように見えた。 
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