再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
四年前、海外出張から戻ると希和が消えていた。

手元に残ったのは退職願と完璧な引き継ぎ書のみ。

人事担当にすぐさま確認するも、手続きに不備はなく、散々慰留を願ったが無理だったと報告を受けた。

せめて俺が戻るまではと引きとめたが聞き入れられず、とにかく急いでいるようだったという。

報告する担当者の顔が真っ青で震えているのを気に掛ける余裕もなく、目の前が暗転し周囲のすべての音が消失した。

混乱とどこにぶつければいいかわからない怒りで、閉じた瞼の裏が真っ赤に染まった気がした。

こんなにも感情が忙しなく動いたのは初めてだった。

同時に、なにをすればよいかわからず途方にくれたのも、人生初の経験だった。

なんとかひと欠片の冷静さを取り戻し、同行していた渕上や、寒河、彼女と親しくしていた社員に事情を尋ねたがなんの手がかりも掴めなかった。

連絡先も変わり、SNSでも見つけられなかった。

思いつく限りの手を尽くし捜しても、結果は変わらなかった。

自宅はすでに引き払われ、実家にも戻っていない。

実家の両親はなぜか口が重く、ほかにやりたい仕事が見つかったからだと苦々しげに告げた。

何度か足を運び、電話を繰り返し、やっと東京にいると彼女の両親から聞き出せたが、詳細な居場所は知らないようだった。

希和の両親は、何度も訪問する俺や渕上に、なぜ娘を捜すのかと訝しげに尋ねてきた。

希和が俺との関係を告げていないのは明らかだった。

理由は不明だが、現状ではなにも口にできない。

一生涯をともにしたいので希和さんを俺にください、と喉元まで出かけた言葉を必死に呑み込んだ。
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