再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
『……嫌がらせなどはなかったはずです。こちらこそ紹介いただいたのに、申し訳ない』


『先日、舘村のご令嬢が御社を訪問していたそうですね。自分こそが嵯峨副社長の婚約者だと主張しているとか……婚約者は武居ではなかったのですか?』


『もちろんそのつもりです。舘村の令嬢が婚約者? その話はどこから……? 詳しく教えていただけませんか?』


根耳に水の話に、背筋に嫌な汗が伝った。


俺の婚約者? 


脳裏に出張前、接待の席に強引に押しかけてきた令嬢の姿が浮かんだ。


まさか、あの女が希和になにか……?


あの親子は俺と、というより嵯峨家との縁故関係を貪欲に欲していた。

本社での開発事業で舘村家の地所を購入する取引予定があったため適当にかわし、腹の内を探るためにぎりぎりの提案をしていた。

どこから聞きつけたのか、希和を気にしていたのも事実だ。

俺に自分を婚約者と考えているか確認し、希和の処遇も尋ねられた記憶がある。

本社への異動も迫り、結果をきちんと残したうえで希和を連れていきたいと考えていた俺は無意識に焦っていたし、傲慢だった。

卑怯と思いつつも、令嬢の策にかかったフリをしていた。

あのときそういえば、なにか録音している様子だった。


疑われないよう好きにさせていたが、まさか希和に聞かせたのか?


最悪の予想に血の気が引いた。

あの録音は俺と舘村家の関係性、俺の本心を知らない人間が聞けば婚約宣言だと誤解される可能性がある。

決定的な単語は口にせず、あくまでも内輪での話に収まるよう配慮したはずだが、万が一希和が耳にしていたら傷つくに違いない。
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