再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「希和ちゃんにはこれまで黙っていたけれど、こちらに引っ越してきた直後、捜し人の問い合わせの電話が何度かあったのよ」


神妙な面持ちで沢野井さんが続ける。

わざわざ口にするくらいだ、俺の捜索とは別件だったのだろう。


「特徴は明らかに希和ちゃんを示すものだったけれど、口調も名乗る名前も怪しくてね」


半年くらいは同様の不審な問い合わせが続いたそうだ。


「樋浦、舘村家の差し金だったんだろうとあなたの話を聞いて腑に落ちたわ。入籍したらしたでなりふり構わず手を出してくるかもしれない。どうかふたりを守ってちょうだい」


「もちろんです。教えてくださりありがとうございます。早々に私の自宅に引っ越してもらうつもりです」


「そのほうがいいわね。父には退去の件を伝えておくわ」


沢野井さんは安心した様子でうなずく。


「希和に住む場所を提供してくださり、本当にありがとうございました」


オーナーの娘である彼女にはこれまでの礼と報告をきちんとしなければ。


「まだ色々と言いたいことはあるけど……もういいわ。嵯峨副社長、とりあえず一緒にコーヒーを飲んで、これまでの希和ちゃんの思い出話をしましょうか。詳細は月曜に聞くから週末は連絡せずにゆっくりするよう、伝えてちょうだい」


先ほどまでの怒りに満ちた表情から一転して、穏やかに告げられ了承した。
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