再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「……なんだ?」


「失礼しました。今の、雪の件でしょうか」


まさか笑顔に見惚れていたなんて言えない。

慌てて、平静さを装う。

すでに元の無表情に戻った副社長は、トンと長い指で机を軽くたたく。


「経験と知識に基づいた報告書を作ってほしい。着眼点に期待している。話は以上だ」


「は、はい」


一礼をして、退出する。

扉を閉める瞬間、盗み見た面差しはすでに執務机に積まれた書類に向けられていた。


「期待している、なんて初めて言われた」


なぜか胸の奥が燃えるように熱い。

心なしか頬も熱を帯びている気がする。

初めてきちんと会話ができたせいか心がふわふわと落ち着かない。

浮つきそうな気持ちを必死に戒めて、秘書課に戻った。

この日を境に、少しずつ副社長と仕事の会話が直接できるようになった。

仏頂面なのは進捗状況が悪いか、報告が上がってこずにヤキモキしているときだと心情や表情が少し読めるようになってきた。

尊大で傲慢、という第一印象が少しずつ崩れていく。

彼は仕事の過程や取り組みをしっかり考慮し、きちんと公平に部下を評価している。

芳しくない結果だけを見て、不当に扱ったりしない。

物言いは厳しいが決して横暴ではなく、他者の意見も積極的に取り入れる。

鋭い指摘は相変わらず多いが、出会った当初の苦手意識はいつしか薄れ、この人に認められ、役に立ちたいと願うようになっていた。
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