再縁恋～冷徹御曹司の執愛～
「ちょっと、なにをしているの！」


混乱した場に杏実の鋭い声が響いた。


「樋浦さん、あなたが狙っていたのは先輩で、婚約破棄どころか恋人でもなかったでしょ！　希和にこんな茶番じみた嫌がらせをするなんて最低ですね」


「なっ……違うわ！　あ、あなたこそなにを言うの？　なんでここにいるのよ！」


金切り声で反論する樋浦さんに、親友は毅然とした態度で答える。


「これ以上妄想話を続けて、騒ぎを大きくするなら警察を呼びます」


スマートフォンを掲げた親友の姿に樋浦さんは顔色を変え、すぐ近くに停車していた黒塗りの車に乗り込み逃げるように去った。


「希和、大丈夫？　なんなの、あれ？　正気とは思えない」


いまだ動揺から完全に立ち直れずにいる私を気遣って、杏実は私とともにもう一度駐車場へ引き返した。

そして私を車に乗せ、園に電話して事情を伝え悟己を迎えに行ってくれた。

自宅から持ち出したチャイルドシートに悟己を乗せていると、車外で電話していた杏実が運転席のドアを開けた。


「春香さんに事情を話して、嵯峨副社長に連絡してもらうよう伝えたわ。希和の顔色も悪いし、樋浦さんの動向も心配だから今日の外食はやめましょう。自宅に送るわ」


「ごめんね」


「希和は悪くないんだから、謝らなくていいの」
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