再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「この体験プログラム案について確認したい」


苦言をぶつけ気が済んだのか、彼が唐突に話題を変えた。


「乳牛の件ですね、すぐに資料を持ってまいります」


冷たく震えそうになる指を強く握り、返答する。

怒りよりもやはり信用されていないという失望が胸を暗く支配する。

一礼して踵を返す瞬間に見えた、副社長の表情は少し陰って見えた。


……副社長、もしかして体調が悪い……?


本州に比べて涼しいとはいえ七月半ばを過ぎた今、日中の気温は三十度近くに上昇する日だってある。

けれど朝晩は長袖が必須なほど気温の差が激しいときも多く、本州から引っ越した当初は慣れずによく体調を崩していた。

秘書課の壁掛け時計を見ると午後一時半をすぎていた。

資料を手に戻り、ひと通りの説明を終えたとき、やはり顔色の悪さが気になり声をかけた。


「副社長、お顔色が優れないようですが……」


「大丈夫だ」


「昼食は召し上がりましたか?」


副社長は食事の優先順位が低く、放っておくとすぐに一食二食と抜いてしまう。


「いや」


「なにか、ご用意します」


「一時間後に出るから不要だ。……お前は?」


「私、ですか?」


尋ね返されて、驚く。


「食事はとったのか?」


「いえ、まだです」


「この件はもういい。自席に戻れ」


「でも……」


言いよどむと彼が小さく嘆息した。
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