再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
これ以上機嫌を損ねないように左横側から副社長をそっと盗み見ると、つらそうに肩で息をしていた。

タクシー乗車時に触れた手は、驚くほど熱かった。


「すみません、少し失礼します」


ひと言断って、額に触れる。


「熱があります。自宅に到着するまで眠ってください」


反論するのに疲れたのか、副社長は小さくうなずいて目を閉じた。

伏せたまつ毛の長さにしばし見惚れてしまう。

渕上さんにメッセージを送り、状況を伝えると、副社長に週末は休むよう伝えてほしいと返信が届いた。

スケジュール調整を済ませ、往診医の手配をしたと追記があった。

親切なタクシー運転手の力を借りて、副社長をなんとか最上階にある自宅に運んだ。

肩に凭れかかった副社長を寝室のベッドにやっとの思いで寝かせた。

賃貸専門の三LDKの高級マンションとは聞いていたが、家具や私物が少ないせいかさらに広く見えた。

ベッドサイドに荷物を置き、スーツの上着を脱がせる。

そっとシャツのボタンを幾つか外し、洗面所から拝借したタオルで汗を拭った。

生活感の感じられない部屋の様子に、札幌にずっと住む人ではないという現実を思い知らされ胸が軋んだ。

なぜかヒリヒリ痛む胸を押さえつけ、深呼吸を繰り返す。
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