再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
実際に会うと、さらに違和感は強くなった。

清潔感のある装いと控えめな化粧、不快な香水の匂いもしない。

垂れ目がちの大きな二重の目は怯えているようだった。

緊張しているのか、華奢な体が小刻みに震えていた。


こいつが、悪女? 


まさか、演技しているのか?


……面白い。


だったら化けの皮を剥いでやるまでだ。


今まで誑かしてきた男たちと同じと思うなよ?


宣戦布告のように辛辣な言葉を投げつけ、半ばゲーム感覚で採用を決めた瞬間だった。

調査報告通りなら、早々に手ひどく切り捨てる。

役に立たない人間は不要、逆に利用してやると考えていた。

だが、武居は文句ひとつ言わなかった。

真面目で、多少融通のきかないところはあるが、任せた仕事は責任をもってやり遂げる。

非はすぐに認め、俺の考えや行動をさり気なく先読みする。

周囲をよく見ていて、押しつけがましさのない気遣いは心地よく、仕事の効率がずいぶん上がった。

追加の調査報告を見ずとも、彼女の悪評が根も葉もないものだとわかっていた。

ただなぜ陥れられたのかを知りたかった。


『――いつも、丁寧に書類を整理してくれて助かりますね』


一見穏やかだが、仕事には厳しい渕上も彼女を認めている。

けれど俺は過去の最悪な出会いをいまだ塗り替えられず、信頼関係を築けないままだった。


『いい加減きちんと向き合われたらいかがです? 武居さんは必要不可欠の人材ですよ。副社長ならすでにおわかりでしょう』


気心のしれた秘書室長の、的確な指摘は、耳が痛い。

非を認められない俺は最低だ。
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