再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「言っただろ? 感謝していると。今後もそばにいてほしい」


至近距離に迫る、整いすぎた容貌に鼓動が暴れ出す。

耳にした言葉が信じられず息を吞んだ。


「一番近くに、ずっといてくれ」


甘い告白のような台詞に胸が詰まり、頬が一気に熱を持つ。


秘書として、必要としてくれているだけ、図々しい勘違いをしちゃダメよ。


身の程知らずな考えが浮かびそうになり、必死に打ち消す。

初めて目にする、砕けた副社長の姿に視線が引きつけられた。


「髪が口に入っている」


「す、すみません。さっき首を動かしたので……」


慌てて伸ばした指が、骨ばった指に包み込まれた。

さらに頬に触れる長い指の感触にビクリと肩が跳ねた。

はらりと落ちた髪を優しく整えてくれた。

ありえない行動に心臓が早鐘を打ち、副社長を凝視するしかできない。


「……綺麗な髪だな」


どこか名残惜しげに髪から手を離す。

ふわりと鼻を掠める柑橘系の香りに心がざわめいた。

二重の目を縁どるまつ毛は信じられないくらいに長く、穏やかな低い声に胸の奥が甘く疼いた。


「あ、ありがとうございます……」


もはや、なにに礼を言っているのかわからない。

いい年をして、他意のない親切な仕草に右往左往する自分が情けなくてうつむくと、耳元近くで色香のこもった声が響いた。


「俺以外に簡単に触らせるなよ?」


驚いて顔を上げると、鋭くも真摯な眼差しを向ける上司がいた。


どういう、意味?


いつもとは雰囲気も態度も違いすぎて、理解が追いつかない。
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