再縁恋～冷徹御曹司の執愛～
「無防備すぎて心配になるな。……そろそろ、行くか」


混乱する私をよそに、彼は腕時計に視線を落とす。

そして、居住まいをただし、私をじっと見据えた。


「武居」


初めて呼ばれた名字に、心が浮足立つ。

私の心情とは真逆に、副社長が申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「俺は噂を通してお前を見ていた。上司として最低な振る舞いを反省している。傷つけて本当に申し訳ない。武居が望むなら新しい職場の紹介はもちろん、補償も厭わない」


突然の真摯な謝罪と予想外の提案に目を見開く。

やはり採用時にある程度の調査はされていたらしい。

勝手な真似をしてすまないとさらに謝罪され、首を横に振る。

私自身を見て、信じてくれたのが嬉しく、さらに心からの言葉が胸に刺さり、苦しくて泣きたくなった。

じわりと滲み始めた視界に、少し慌てた様子の副社長が映る。


「追い詰めて、本当に申し訳ない」


年上の、地位の高い人とは思えない狼狽えように驚くと同時に、心が揺れる。

なんだかこの数日で、意外な姿ばかりを目にしている。

きっとこの人の本質はとても優しく温かいのだろう。

職場で、しかも副社長の前で涙を見せるなんてありえないと、瞬きを繰り返し、涙をこらえた。
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