再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
周囲に知られたら困るのではと言い訳のように口にすると、公表しようかと簡単に告げる。


そんな真似をして後々困るのはあなたでしょう?


私が勘違いしたらどうするの?


口に出せない質問ばかりが、胸に重く積もっていく。

母には交際相手がいると伝えているが、副社長だとは話していない。

会社でも恋人の有無ははっきりと口にしていない。

周囲に気づかれてはいけないのに、ふたりきりの帯同や副社長室では決意が緩む。

こんな私は秘書失格だ。

私の噂はずいぶん下火になったが、副社長に相応しくない秘書だと考えている社員もいる。

札幌での新規事業は大変な時期が幾度もあったが、近頃は安定してきていた。

惺さんが直接交渉の場に出向き、契約を締結するような状況はほぼ終了している。

完成まではまだ時間がかかるだろうが、いつまで彼がここにいるかは不明だ。

最近は東京本社への出張が増え、一週間以上滞在しているときもある。


もう、東京に戻る? 


私たちはどうなるの? 


尋ねたい事柄は幾つもあるのに、怖くて口にできない。

しつこく問い詰めて疎まれたり、やはり玉の輿狙いかと誤解されたくない。

恋がこんなにも人を臆病にさせるなんて知らなかったし、ひとりに戻る覚悟はいまだできずにいる。
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