再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「ここでの開発事業もひと段落ついたようだし、嵯峨副社長も東京で新たな事業に携わるのかな。ほら、新事業は確か舘村薬品工業と提携して進める大規模なものだろう? 縁戚になるのに、いい時期だからねえ」
悪意のないお客様の声が頭の中に響いたとき、ご令嬢が偶然振り返った。
細面の整った面差しに、ふわりと綺麗に巻かれた栗色の髪、淡いベージュのワンピースがよく似合っている。
視線を受け止められず、慌てて目を逸らした。
「すまない。話し過ぎたね。それじゃ、副社長によろしく」
エントランスに寄せられた車に朗らかに乗り込むお客様に挨拶し、見送る。
冷静に、と自分に何度も言い聞かせるが心の中が冷えて凍りついていく。
東京に、帰るの?
婚約って、なに?
そんな話は聞いていないし、全然知らない。
震える足を機械的に動かし、社内に足を踏み入れた。
エレベーターホールまで周囲を見ずに早足で進む。
「……武居さん?」
背後から呼ばれた名前に思わず足を止めた。
恐る恐る振り返ると、先ほどの女性が小首を傾げながら立っていた。
「……はい」
反射的に返答する声が、掠れる。
「初めまして、舘村奈央と申します。惺さんに会いに来たのですけど、外出中らしくて」
邪気のない様子で受付に視線を動かし、肩を竦める。
さらりと呼ばれた名前に、心がみっともなく揺れ動く。
悪意のないお客様の声が頭の中に響いたとき、ご令嬢が偶然振り返った。
細面の整った面差しに、ふわりと綺麗に巻かれた栗色の髪、淡いベージュのワンピースがよく似合っている。
視線を受け止められず、慌てて目を逸らした。
「すまない。話し過ぎたね。それじゃ、副社長によろしく」
エントランスに寄せられた車に朗らかに乗り込むお客様に挨拶し、見送る。
冷静に、と自分に何度も言い聞かせるが心の中が冷えて凍りついていく。
東京に、帰るの?
婚約って、なに?
そんな話は聞いていないし、全然知らない。
震える足を機械的に動かし、社内に足を踏み入れた。
エレベーターホールまで周囲を見ずに早足で進む。
「……武居さん?」
背後から呼ばれた名前に思わず足を止めた。
恐る恐る振り返ると、先ほどの女性が小首を傾げながら立っていた。
「……はい」
反射的に返答する声が、掠れる。
「初めまして、舘村奈央と申します。惺さんに会いに来たのですけど、外出中らしくて」
邪気のない様子で受付に視線を動かし、肩を竦める。
さらりと呼ばれた名前に、心がみっともなく揺れ動く。