再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「申し訳ございません。約束が、ありまして……」


「知っています。行先は同じなんだから待っていてほしかったわ」


どういう、意味?


接待ではなくて、舘村さんとの約束だったの?


疑問が頭の中をグルグル回る。


「ちょうどよかった。あなたにお話があるので、お時間をいただけません?」


挑むような鋭い目つきを直視できず、うつむいて答える。


「……かしこまりました。少々お待ちください」


受付で、ロビーの一角に設けられた応接スペースを使用する旨を伝える。

それから舘村さんを案内し、向かい合って座った。

ここは周囲を大きめの観葉植物で囲われており、外部からの視線をほどよく遮断できる。


「お忙しいのにごめんなさいね。すぐに済ませます」


口元だけで微笑んだ舘村さんが、手にしていた小ぶりのバッグからスマートフォンを取り出してテーブルに置いた。


「私と惺さんの婚約はご存知ですか?」


呼吸が、止まった気がした。


「その様子だと知らないみたいですね。きちんと話すと言っていたのに、あの人ったら」


「いつ、婚約を……?」


「本決まりになったのは半年くらい前かしら? 嵯峨家とは以前から親交がありましたし、タイミングの問題だったんです」


フフッと声を漏らした舘村さんが肩を竦める。
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