再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
『彼女には札幌に戻り次第話しますし、東京には来させません』


『ええ、あなたとの婚約についてはきちんと考えていますよ』


『ならば彼女には、関連会社への異動か転職を勧めます』


頭の中で何度も彼の声が再生される。


私は恋人じゃなくて、遊び相手? 


評判の悪い私が本気になるのが面白かった? 


一挙一動に振り回される姿を笑っていたの?


どうして……!


信じてくれて嬉しかった。

ずっと一緒にいられるかもしれないって夢を見た。

あの人の隣にふさわしい女性になりたいと願った。

ギュッと閉じた瞼が熱く、胸が痛んでヒリヒリする。


……浮かれて勝手な想像をした私はなんて馬鹿だったの。


あの人は全然違う景色を見ていたのに。


零れ落ちそうになる涙と漏れそうになる嗚咽を必死でこらえる。

ここは会社、私は副社長秘書で、勤務中だ。

泣くわけにいかない。


帰ったら思い切り泣こう。


大嫌いになって、別れを告げればいい。


大丈夫、きっとできる。


自分に何度も言い聞かせて立ち上がり、力の入らない足を無理やり動かし、平静を装う。

その日は、心を無にして仕事をこなした。

久しぶりに札幌に戻ってきた寒河さんに顔色の悪さを心配されたが、なんとか誤魔化した。

……惺さんの不在が唯一の救いだった。
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