再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
帰宅して、糸が切れたように玄関先に座り込んだ途端、涙があふれだす。

食欲はなく、ただ胸が張り裂けそうに痛んだ。

過ごした日々が走馬灯のように浮かんでは消えていく。

どうせならずっと騙していてほしかった。

残酷な真実なんて知りたくなかった。

最低だと罵りたいのに、こんなにもまだ愛しい。

愚かな自分にほとほと嫌気がさす。

私は恋愛に本当に向いていない。


「ふっ……うう」


しばらく泣き続けていると、バッグからスマートフォンの振動音が聞こえた。

のろのろと手を伸ばし、取り出すと惺さんの名前が表示されていた。

ドクンドクンと早鐘を打つ鼓動を無視して、震える手で通話をタップする。

仕事の連絡かもしれないと心で言い訳をして、応答する自分に心底呆れてしまう。


『希和?』


いつもと変わらない、優しい響き。

名前を呼ばれるのが、なにより好きだった。


「お疲れ様、です」


『どうした、泣いているのか? なにかあったのか?』


焦りを含んだ声に胸が詰まる。


なんで気にするの? 


心配する演技なんていらない。


私は遊び相手でしょう?


「違うの、さっき映画を観ていて感動しちゃって……」


無理やり口角を上げた頬が痛い。
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