再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
『映画? ……それならいいが、本当に大丈夫か?』


「もちろん。それより、どうしたの? 今夜は接待でしょう?」


必死に何気ない風を装って話題を変える。

腕時計に視線を落とすと、午後八時前だった。

いつもの接待が終わる時間よりも早い。


『ああ、まだ続いているが希和の声が聞きたくて。……なあ、一緒に東京に来てくれないか?』


思ってもみなかった誘いにひゅっと息を呑む。

このタイミングで切り出されるなんて皮肉もいいところだ。

 
まさか、本社に戻っても関係を続けるつもり? 


……愛人になれとでも?


「どうして、急に」


喉がカラカラに乾いてうまく言葉を紡げない。

こめかみがズキズキと痛み出す。


『……悪い、電話でする話じゃないな。俺はもうすぐ東京に戻らなくてはいけない。でも希和と離れたくないんだ』


嘘つき、私を置いていくって舘村さんに言ったじゃない。


蜂蜜のように甘い誘いに、最低な罠と知っていても心が揺れる。


『東京には、行けないわ』


「すぐには難しいとわかっているが、考えてくれないか?」


感情のままに詰って、ひどいと叫びたい。

でも、できない。

だってまだ好きで、嘘だとわかっているのに、誘われて喜ぶ愚かな私がいる。


『近々アメリカに出張する。戻ってきたらすぐ、東京本社に着任予定だ。帰国後にもう一度答えを聞かせてほしい』


自分の予定だけを簡潔に伝え、判断を迫る。


もうやめて、これ以上惨めにさせないで。
< 67 / 200 >

この作品をシェア

pagetop