再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
『悪い、呼ばれたから戻る。また連絡する』


一方的に通話が切れた。

どこまでも自分中心な態度に乾いた笑いが漏れる。


ねえ、馬鹿な私は思い通りになると信じているの?


どこまで私を追い詰めるの?


ここまでされても嫌いになれないなんて、本当に救いようがない。

このまま近くにいたら、あきらめられない。

騙されている今でさえ、怒りより悲しさと虚しさだけが心を占拠しているくらいだから。


……退職、しようか。


ふいに頭をよぎった考えに、弱り切った心が傾く。

再就職の難しさはわかっているし、今より良い職場には巡り合えないだろう。

宗太先輩にも迷惑をかけてしまうけれど、辞める以外に心を守る方法が見つけられない。

なにより彼の地位を脅かしたくない。

真っ暗なスマートフォンの画面を見つめ、決意する。

気づかれないよう、退職願を申請しよう。

私を捜すとは思わないが、万が一の可能性だってある。

自宅を引き払っても道内、札幌市内にいてはすぐに見つかるだろうし、実家も無理だ。


いっそ、道外に出ようか?


ふとした思いつきが、最善の策に思えた。

まったく縁もゆかりもない土地に、と考えたがそこまでの度胸はない。

悩んだ末、多少の土地勘があり親友が住んでいる東京に決めた。

結局東京に向かうなんて滑稽だけど、就職先も見つかりやすいだろうし、惺さんにも予想外の場所のはずだ。
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