再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「大事な取引先だから、信用のおける人間を紹介したくてな」


「有難いお話ですが、やはり私では……」


なんと先輩の取引先は、嵯峨ホールディングスだった。

鉄道事業を主軸として不動産、物流、商業施設事業等様々なグループ会社が傘下にある大企業だ。

近年、海外での賃貸事業も積極的に行っており、業績もこの時代に右肩上がりらしい。


「日本で三本の指に入る大企業の、SDGsへの積極的な取り組みという記事を、先日ネットで読みました。世界中からますます注目されそうですね」


「さすが敏腕秘書、情報収集能力も高くて申し分ない」


規模が大きすぎて無理だと言うつもりだったのに、逃げ道を失った気がする。


「いえ、私は敏腕でも有能でもないです」


一般的な秘書業務経験はあるが、世界を相手にする一流企業の即戦力になるとは思えない。


「なに謙遜しているのよ。いい話じゃない」


今まで黙っていた親友が口を挟む。


「武居の経験や取得資格は確認済みだし、誰彼構わず声をかけているわけじゃない。俺を助けると思って、引き受けてくれないか?」


真剣な声に、心が揺れる。

再就職できるのは有難いうえに、希望していた秘書業務だ。

会社の規模に腰が引けるが、こんなチャンスは二度とないかもしれない。

新卒での就職活動にずいぶん苦労した記憶がまざまざとよみがえる。


「勤務先は東京本社じゃなく、札幌支社なんですよね?」


「ああ、新規事業のため現在の支社の規模を大きくするらしい」


大企業の新事業でも、地方支社の秘書課なら仕事内容は以前と変わらない可能性が高い。

思い至った考えに従い、決断した。
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