再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「近所に薬局があるの。あの子はこの付近であまり顔を知られていないから大丈夫。一緒に待ちましょう」


女将の配慮に礼を伝えるしかできない。

東京育ちの女将はこの店の主人に嫁ぎ、ずっと札幌で暮らしているという。 

帰宅した沢野井さんに妊娠検査薬を渡され、断られたが代金を支払った。

今すぐに検査をと言わんばかりにお手洗いに案内され、覚悟を決めた。

もしひとりだったら、検査薬の購入すらもずいぶん悩んだだろう。

一度は決めたのに往生際悪く迷いながらパッケージを開け、検査をすると所定時間を待たずして結果が浮き上がった。


「……本当に? 赤ちゃんが、いるの……?」


信じられない事態と幸運に、胸が震えた。

陽性を示す検査薬を何度も確認する。

愛した人との赤ちゃんがここに宿ってくれている、その幸せを嚙みしめる。

まだなんの変化もないお腹に触れる指が緊張と期待で強張ってしまう。


「どうだった?」


洗面所で手を洗って出てきた私は、ふたりに結果を報告した。


「おめでとう! 顔色の悪さと体調不良は妊娠していたからだったのね。まずは病院を受診しなくちゃ。……お相手に伝える?」


遠慮気味に女将に尋ねられ、首を横に振る。

授かった大切な命を蔑ろにされたくないし、知られて奪われるのが怖い。

この子は絶対に産みたい。
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