再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
どんなに泣いてすがっても、あの人は私のものにはならない。

彼の心は私に向いていない。


「最低、大嫌いだと何回も心の中で叫んで、泣き続けました。騙されていたのに、どうしても嫌いになれませんでした」


私の返答に、女将はそっと目を伏せた。

どう足掻いても現実は変わらないのだし、舘村さんから奪いたいとは思わない。

なにより舘村さんの目には明らかな私への憎悪と嫉妬が滲んでいた。

大切な結婚相手にほかの女がいるなんて許せるわけがない。


「そうは言っても、これからどう生活するつもりなの?」


やはり冷静な沢野井さんの声に現実を思い出す。


「とりあえず……退職と引っ越しを……」


妊娠がわかった以上、退職は決定事項だが札幌で産み育てるわけにはいかない。

どこか新しい場所に移って、早急に職探しをしなければいけない。


「すみません。先ほど私が希望した件は忘れてください」


本当なら喉から手が出るほど欲しい仕事だが、今の私では無理だろう。

惺さんの子を宿した私との関りはふたりにとってリスクでしかない。


「仕事もなくてどうやって生きていくつもり? ご両親に助けてもらうの?」


「いいえ、仕事はこれから探します。実家には戻りません」


両親はきっと反対して、相手が誰か問い詰めるだろう。

狭い町だし、私が戻れば噂の的にもなり迷惑がかかる。

彼の耳に入る可能性だってあるし、危険だ。

私にとって宝物といえる存在を疎まれたくないし、守り抜きたい。
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