再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
さらに私の退職手続きや今後の段取りについても親身になってくださった。

突然の妊娠に戸惑い混乱し、冷静な判断力を失っていた私にはとても有難かった。


『嵯峨副社長の海外出張に合わせて休暇申請をして、そのまま退職願も人事に預けてね。マンションの退去手続きをして嵯峨副社長の自宅から私物を引き上げて合鍵を返却して……あなたが東京に来る日に私ももう一度札幌に迎えに来るわ』


『春香、もう一度買い付けに来るって言ってたものね』


『ええ。だから私と一緒に東京に戻りましょう。部屋はある程度調えておくわ』


『いえ、そこまで甘えるわけには……』


なにもかもふたりに助けていただいて、さすがに申し訳なさすぎる。


『従業員をサポートするのは当然よ。今後うちの店でガンガン働いてもらうから大丈夫』


『そうよ。気にしないで甘えたらいいの』


こんな調子でふたりは私の転居と転職計画を一緒に練り上げてくださった。

両親には出発前に、妊娠、転職、引っ越しについて伝えられる範囲で説明した。

愛する人の子を身ごもったのは幸せだったが、父親の名を隠さなければいけないのはつらかった。

ひとりで出産して育てると伝えると、父親が誰か何度も厳しく問い詰められた。

教えないなら手助けも援助もしないと責められたが、惺さんや舘村さんに知られるわけにはいかず、黙るしかできなかった。
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