再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「やっと、見つけた……!」


低く押し殺した声にハッとする。


ダメだ。


惺さんと感動の再会なんて、できない。

だって私はすべて捨てて逃げたのだから。

なにより今の彼には、大切にすべき人がいる。

突然の事態に混乱している頭を必死に動かし、震える足に力を入れて一歩後退する。


「どなたかと、お間違え、では」


もつれる舌でなんとか返答する。


「……俺が、お前を、見間違えると思うか?」


綺麗な二重の目が不機嫌そうに細められ、周囲の温度が急激に下がっていく。

骨ばった指が私へと伸ばされたとき、背後から明るい声が響いた。


「すみません、台車が通ります!」


店員たちの声掛けに彼が一瞬気を逸らした隙に、人込みを避けて一目散に走り出す。


「待てっ……希和!」


背後から焦ったような声が追いかけてくるが、止まるわけにはいかない。


見つけた、ってなに?


まさか、私を捜していたの? 


どうして、あんなに怒っているの?


頭の中をグルグルと幾つもの疑問が駆け巡る。

怖くて後ろを振り返れず、全力疾走した足が震えるのも気にする余裕はなく、急いで地下鉄へと向かい、やってきた電車に乗り込んだ。

周囲を注意深く観察しながら、空いた座席に腰を下ろす。

動機が激しく、呼吸が苦しい。
< 87 / 200 >

この作品をシェア

pagetop