再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
……この地で再会の可能性を考えなかったわけじゃない。

でも住む世界が違う彼と、会うはずはないと思っていた。

久しぶりに聞く声、ぶつかった肩の感触に、時が一気に巻き戻ったように胸が騒ぐ。

酷暑とは無関係な顔の熱さにクラクラする。

心の奥深くに閉じ込め、無理やり押し殺した恋心が再び動きだしそうで怖い。


しっかりして、忘れるって決めたでしょう?


ギュッと嚙みしめた唇の痛みが、ほんの少し冷静さを取り戻させてくれた。

手土産の入った紙袋を胸に抱えなおして店に戻ると、春香さんは接客中だった。

商店街から少し外れた場所にある店は、春香さんが全国から買い付けてきた品々であふれている。

四季に合わせた食器類も豊富で、雑貨好きの方々からの評判は高く、来店客も増えている。


「お疲れ様……ってちょっと、どうしたの?」


会計後、お客様を見送った春香さんが私の顔を見て、慌てて駆け寄ってきた。


「手土産は控室に置いておきました」


どう答えればよいかわからず、まずは仕事の件を伝えた。


「ありがとう。それより真っ青よ。気分が悪いの?」


「……さっき百貨店で、偶然惺さんに会ったんです」


説明する声が掠れ、心臓が強く圧迫されているかのように呼吸が苦しい。

あのときの彼の声と表情が脳裏にやきついて離れない。

私の返答に春香さんはサッと表情を引き締めて店の入り口に向かい、ブラインドを下ろし“閉店”の札をかけた。
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