再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「ひとりで大丈夫? そもそも会ってどうするの? 悟己ちゃんについて伝えるつもり?」


「自分でもまだ、よくわかりません。でも彼の考え、目的を尋ねたいんです。悟己についてもし調査済みなら、渡さないとしっかり宣言してきます」


あれこれ考えて悶々とするより、本人に聞いたほうがいい。

もちろん会うのは緊張するし、怖い。


……きっと、さよならも言わずに消えた私を怒っているだろう。

当然だ。

弄ぶつもりだった女に逃げられて、恥をかかされたとでも思っているだろう。

秘書に着任した当初の、冷たい目と態度を思い出すと心が凍りつく。

でも、もう許されなくても構わない。

だって、私たちの関係すべては偽物だったのだから。

前を向いて立ち上がるために、惨めな恋心や淡い想いは心の奥底に鍵をかけて閉じ込めた。

だけど悟己が高熱を出したり、自分が体調不良になると、途端に弱い自分が顔を出した。

無力感に苛まされ、母親としての自信を失いかけたのは一度や二度ではない。

苦しいときやつらいとき、無意識に心に浮かび上がるのは、助けを求めてしまうのは、いつだって彼だった。

何度名前を呼んでも二度と会えない。

この想いは届かないし、どんなに泣いても彼の心は私のものにはならない。

私を、甘く抱きしめてくれる人はいない。

呪文のように何度言い聞かせただろう?

寂しさと孤独に負けそうになるたび、彼の面影を受け継ぐ息子を抱きしめた。

悟己の名は、愛しい人の読み方だけをもらった。

それが私にできる精一杯のあきらめ方だった。
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