再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「わ、私は……」


「まだ人違い、とでも言う気か? 俺がお前を見間違えるはずないだろ!」


強い口調で否定され、目を見開く。

ビクッと肩が跳ねた。


やっぱり、怒っているの?


私の反応に、彼が長めの前髪をもう片方の手でクシャリとかき混ぜる。


「俺がどれだけお前を……っ」


綺麗な二重の目を一瞬悲しそうに歪ませてうつむく。

手首を握る指にさらに力がこめられる。


「……悪い……頼むから、一緒に来てほしい」


「でも、私」


「お前に拒否権はない。もう逃がさないと言っただろう?」


グイッと手首を引かれ、胸元に引き寄せられる。

ふわりと漂う懐かしい香りに胸が軋んで、鼻の奥がツンとした。

腰に回された手と近すぎる距離に落ち着かない。


流されちゃダメ、しっかりしなさい。


悟己を守るのよ。


脳内でもうひとりの自分が必死に警告する。

彼の目的を聞かなくては。


「……なんで、今になって……」


四年も経ってから、現れたの?


「話は車に乗ってからだ」


閉鎖的な空間でふたりきりになりたくない。

私の躊躇いを見透かしたように、彼が耳元でささやく。


「勤務先の前で騒ぎを起こしても、俺は一向に構わないが?」


「なっ……」


脅しのような物言いに、慌てて周囲を見回す。

歩道を行きかう人たちが、抱き合う私たちに怪訝そうな視線を向けている。

一気に頬が火照り、いたたまれず下を向く。

私が春香さんの店の従業員だとこの界隈では認知されているし、惺さんは言わずと知れた有名人だ。
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