再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
抵抗できず眉間に皺を寄せる私とは対照的に、彼は完璧な微笑みを浮かべる。


「イイコだ」


腰を抱かれたまま促され、助手席に乗せられた。

運転手はおらず、惺さんがハンドルを握る。


「どこに、行くんですか……?」


「敬語」


「え?」


「敬語はやめろと以前言ったはずだ」



正面を向いたまま、淡々と言い放つ。

甘い記憶が呼び起こされ、胸の奥がキリキリと痛む。


いまだに一挙手一投足に振り回される自分が情けない。

あの頃の自分に戻ってしまったような不安がふつふつと湧き上がる。

グッと唇を噛みしめると、突如車が道路脇に停止して、顎を掬い上げられた。

ふわりと唇に触れた温かな感触に目を見張る。


「……噛むな、傷になる」


口調の冷たさとは裏腹に、優しい指の動きで唇をなぞられる。


「家に着くまで我慢しようと思ったんだが……」


なにを、と問いかけた声が彼の唇に阻まれる。

頬を両手で包み込まれ、荒々しい口づけが降ってきた。


「う、ん……っ」


呼吸さえも奪うような激しいキスに頭の中が真っ白になる。

ほんの少し唇が解放された瞬間、急いで酸素を取り込むがすぐに塞がれ息苦しくなる。

送り込まれる吐息と触れる唇の感触に頭の中が支配される。
< 95 / 200 >

この作品をシェア

pagetop