飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
「オメガ被害者の会があるんだって。行ってみない?」
 夜、自室ですごしているときだった。
 スマホ越しのベータの友達、根津谷(ねづや)初音(はつね)の言葉に、花海琴鳥(はなうみことり)は戸惑った。
「無理にとは言わないよ。入口まで行って、嫌なら帰っても良いんだし」
 初音はあえて軽い口調だった。
「今度の日曜日だって。一緒に行くよ。私達まだ25歳、これからの人生の方が長いんだよ? 加害者のせいで自由を奪われるなんて悔しいじゃない」
 確かに悔しい。でも怖い気持ちのほうが大きかった。
 初音は無理強いはしなかった。
 とはいえ、せっかく教えてくれたのに、と申し訳ない気持ちも湧いた。
「行く」
 そう答えると、初音はほっとしていた。
 電話を切ってから当日を迎えるまで、毎日心は揺れた。
 行ったところでなんとかなるのか。
 もっとひどい被害を受けた人が行くところではないのか。
 でも自分だって苦しい。
 ただ歩いていただけなのに、あんな理不尽を受けるなんて。
 なんでこんな苦しい思いをしなくてはならないのか。
 結局、当日になって初音は行けなくなった。母親が事故にあったのだという。
「軽傷なんだけど、ごめん! また今度一緒に行こう!」
 電話で必死に謝られた。
「気にしないで。お母さんお大事に」
 そう言って電話を切った。
 せっかくの決心が宙ぶらりんになってしまった。
 どうしようか、迷った。
 そうして、決めた。
 1人でも行ってみよう。
 怖かったら戻ればいいんだ。
 震える手でバッグを掴み、玄関を出た。
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