飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える

 診断後、琴鳥はヒートに怯えた。
 ヒートと呼ばれる発情期は平均して年に4回、1週間ほど。これが起きるとアルファにだけわかるフェロモンを出し、アルファを激しく求める。アルファはフェロモンに引き寄せられ、ときとして衝動のままにオメガを襲ってしまう。発情もフェロモンへの衝動も本能なので止められない。
 だからオメガはヒートが起きると予想される期間は抑制薬を飲んで自宅にこもることが一般的だ。
 ときおり想定外のヒートを起こしてしまった人が襲われるという事件が報道される。
 そのたびにオメガがバッシングを受けるのが辛かった。
 オメガが誘惑したのに、とか。
 薬をちゃんと飲めよ、とか。
 オメガが悪い。誰が言ったともわからないその意見を、いつしか世界の全員が言っているように錯覚し、知らずに飲み込まれ、震えた。
 実際のヒートは苦しかった。薬で抑えていても体は熱を帯び、だるくて動きたくなくなる。かと思うと謎の衝動に襲われた。ずっとそわそわして、外に出たくてたまらなかった。ベータの姉からは目が怖い、と言われた。
 一週間も学校を休むと勉強の遅れを取り戻すのも大変だった。いくらリモートで授業を受けても、集中できなかった。
 友達もできにくかった。だが逆に、数少ない友達はみな信頼できる人ばかりとなった。
 オメガと友達でいると彼氏をとられるよ。
 そうからかわれた友達は怒って言い返してくれた。
 泣きそうになっている琴鳥に気づき、あんなの気にしなくていいから! と慰めてくれた。
 就職も大変だった。
 オメガは就職に不利だった。ヒートで定期的に休むし、想定外のヒートは周りを巻きこむから。
 ベータの友達と同じようには就職できず、なんとか滑り込みで就職を決めることができた。
 職場ではオメガであることを公表していないが、定期的に休むことでバレて距離を置かれたりからかわれたりした。
 愚痴ったとき、友達は親身に聞いてくれた。いい友達で良かった、と思った。
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