飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
「彼女は何もしていないだろう」
 その迫力は男にひけをとらなかった。30前後だろうか。ライトグレーのスーツが爽やかに似合っていた。
「アルファのくせにオメガの味方をするのか!」
「彼女がお前に何をした? オメガから被害を受けたからと言ってすべてのオメガを敵対視するのはいかがなものか。誇りあるアルファのすることか?」
 女性の手を男性が振り払った。
「さっさと出ていけ」
「言われなくても。さあ、行こう」
 女性は優しい声色で琴鳥を促す。
 肩を抱かれるようにして、琴鳥は歩き出した。
 一部の男がニヤニヤとそれを見ていた。

 ビルを出ると、琴鳥は大きく息を吐いた。
 玄関前にはハトがいた。琴鳥たちを見ても逃げない。少し近づくとようやく歩いて逃げる素振りを見せた。
 図太い、と暗い気持ちでハトを見る。こんなに図々しければどれだけ生きやすいだろう。もし自分に翼があったら、すぐさま飛んで逃げるだろうに。
「大丈夫? あちらに座ろうか」
 女性が手を差し伸べて示した。
 ビルの前は広々とタイルが敷かれており、樹木が植えられていた。その木陰にベンチがある。
 9月も半ばを過ぎたが、昼間はまだ暑い。木陰に入るとそれが少しやわらいだ。
「すみません、お手数を……」
 座ってから、謝罪した。
「気にしないで」
 女性に微笑みかけられ、琴鳥は見とれた。
 中性的な整った顔立ちで、美人というよりかっこいい。キリッとした涼やかな目元、すっと通った鼻筋、シュッとした顎のライン。ショートのウルフカットは上品なアッシュ系のカラーで、ウェットな質感に仕上がっていた。 
「君はオメガだよね? どうしてあそこに?」
「被害者の会があるって聞いて」
「あれは「オメガによる被害者の会」だよ。ほとんどの会員がアルファで、たまにベータがいる。オメガを恨んでいる人達ばかりだ」
「そんな……」
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